185年前の『按腹図解』でも未熟な手技療法の乱立を嘆いている。
『按腹図解』(太田晋斎著)は1827年(文政10年)に発刊されていますから、時代は坂本竜馬の生まれる8年前のことです。
文中には「今世に按摩と称し…(中略)…病を治すと称して一家業となして人を惑わす者あり」と記されていて、派手に音を立てる曲手を不必要に使って熟練を装いながらも医療的な価値が失われつある傾向を嘆いています。
他の手技療法者の批判にもなっていますが、本意は総合医療術としての按摩を伝承したかったということだと読み取れます。
按摩が単なる慰安・娯楽ではなく、部分施術でもない、「虚すれば補し、実すれば瀉す」、「14経絡の流れに沿って施術し、生体機能の変調を調える全身的総合療術」としての東洋医学の一科であることを謳っています。
大阪人らしく序文の最後には「よくいうは」と書いて、婉曲に批判の矛先を収めています。
セラピスト像として、太田晋斎先生はそんな茶目っ気も感じられていいですねぇ。
自己按摩には、体中を擦り・圧し、両耳・両目に手掌圧、鼻をつまむなども入っていて全身施術を重視していたことがわかります。
『按腹図解』というと腹部の按摩を語っているだけのように思ってしまいがちですが、太田晋斎は腹部だけの按摩本を読んでそれでは足りないとして『按腹図解』を著しています。
右手3指で上腹部任脈のツボを圧す時の、右母指と左手で左脇腹を手前に寄せてくるフォローは指圧の源流であることを示していると思います。
文中には口伝の秘術とされる「収神の術」と「帰元の術」がぼんやりと記されていますが詳細はわかりません。
「収神の術」は危篤の人、甚だしく弱った人の「元気を気海(へそ下1.5寸)に還し危機を転じて平安ならしむる」、「幽微にして筆頭の尽くし難し」とありますから、極弱い下腹部の手掌圧ではなかったかと想像します。
私も最期のワンタッチとして選択するとしたら下腹部の手掌圧だと以前から考えており、何人かの方にはそうしてきました。
医道の日本社の『按腹図解』の用語解説では「収神の術」に「精神をおさめる法」としてありますが、それでは本文の文脈に沿った表現ではありません。
大先輩の増永静人先生の解説ですから「オマエナンカガ…」という立場ではありますが、ここはもう少し丁寧な解説がほしかったところです。
「帰元の術」には「拳法家のいう死活の法」とありますから、背部を膝で刺激したか、もしかしたら心臓マッサージだったりして…などと想像しています。
旧仮名遣いの原文ですが、古典を読むのも面白いですよ。
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