50代女性、「右肩が痛くて上がらない」ということで指圧にいらっしゃいました。
手先のしびれや頭痛もあって、家族歴から脳血管障害も心配のようです。
肩が上がらないという訴えに対してまず疑うのは「五十肩(肩関節周囲炎)」ですが、このケースでは右肩関節に異常はなく、「右肩甲挙筋に小さな断裂がある」と考えられるので、その鑑別について記します。
この女性は調理の仕事をしていますが、年末年始はお休みでした。
しかし、正月客のおもてなしのためにしばらく作っていなかった「うどんを打った」ことが、どうやら右肩痛の直接の引き金になったようです。
背中は丸くなり(胸椎後弯の増強)、両肩が上がっています。
年末までの調理の仕事(重い鍋や食器の出し入れ、洗い場の仕事もあります)による猫背姿勢・筋肉疲労と、寒の入りを過ぎたここのところの寒さも考えに入れておきます。
まず座位で右肩関節外転90°(水平挙上)まで徐々に上げていきます。
違和感はあるようですが激痛はないようです。
そこで肘を90°に屈曲させます。
手掌が前を向いています。
肘が前に出ることも、指先が後ろに反ることもないので、胸を張り肩甲骨を寄せることと、肩関節外旋(上腕骨を外側にねじる)がしっかりとできています。
この時点で五十肩(肩関節周囲炎)である可能性は半分以下になっています。
外転の始動をする棘上筋腱の炎症や、外旋の時に働く小円筋に問題はなさそうです。
90°から135°では痛みが出るだろうと考えて、この時点ではそれ以上の肩関節外転をしないでおきました。
伏臥位の指圧では、肩関節外転約80°・肘屈曲90°の姿勢を御自分で意識せずに選択していました。この時点で肩関節周囲炎は除外できそうです。
肩関節周囲炎があって楽な姿勢をとるなら、上肢は自然と体側に沿って下げます。
肘軽度屈曲で肩関節を内旋させて手掌を上に向けるのが一番楽な姿勢です(肩関節周囲炎の方の伏臥位の姿勢は、セラピストがこういう姿勢をとらせてあげてください)。
胸椎の後弯が増強していますから「おばあさんの背中」になっています。
これでは背中の老化ですから、胸椎のカーブをなだらかにして、体を蘇らせていくことがとても大事です。
左半身から指圧をします。
頭にむくみはなく、後頚部、側頚部、肩上部とこっていました。
こりには弱い刺激です。
肩甲骨の間は、肩から肩甲下部までドームのようになっていますから、脊柱と平行するように母指を使っていきます。
こういう時に私のアロマ指圧のタッチでは、母指の指紋部から母指球までを肩から肩甲間部の曲面に密着させていきます。
特にファーストタッチでは広い面を当てて、手掌圧を気持ち母指側に集める感覚で背部を伸ばしていきます。
四指も指紋部と指全体を使って右肩甲骨を軽くとらえて、右の患部周囲の血行促進をしていきます。
痛みがある、痛みを探るという場合には、指を立てて1,2,3で圧し込むような本格的な指圧はできません。
これが基本と臨床の違いです。
繰り返しソフトタッチで足まで緩めていきます。足に冷えはありません。
さて右肩です。
僧帽筋と肩甲挙筋がある頚の付け根「肩根点」を圧すと、頭が右へ回旋します。
引っかかり、癒着がこのあたりにあることがわかりますから、圧は極弱くします。
右肩甲間部第1点(頚の付け根の下)を軽圧すると「それだ!」という痛みがありました。
普通の痛みではなく激痛ですから、傷になっていて傷口が開いています。
その1点以外に、肩の周囲を探って強い圧痛点はありませんでした。
右肩が上げにくいことの一番の原因は、右肩甲挙筋の使い過ぎによる小さな断裂だったようです。
肩甲挙筋の傷の痛みが神経を介して指先まで走り、痛みを出さないように体を硬く緊張させた結果、血行不良による頭痛にもなっていたようです。
仰臥位に移る時には素早く姿勢を変えることができました。
こういうことも肩関節周囲炎の方ではおそるおそるしかできませんから、鑑別のチェックポイントになります。
全身指圧後、座位で問題なく肩関節の外転は180°までできました。
胸椎も矯正されて背中が若返っています。
ひとつひとつ細かくチェックして確かめていかなければ、体が連れてきた物語を読むことはできません。
適量刺激を間違うなら弱いほうに間違う、いつも言うことですが強い刺激ではワンタッチでダメにしてしまうことがあります。
弱い刺激なら足していけばいいのです。
まず自分の気持ちを楽にして、物語の最初のぺージを開いてください。
真実を連れてきているのはお客様ですが、その物語を面白く読めるかどうかはあなたの演出、構成にかかっています。
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