「朝、動悸がして心窩部から突き上げるような痛みがあった。今は右肩が痛くて右手まで走るような痛みがある。家に来て指圧をしてもらえないか?」、お得意様の60代女性からの電話です。
心臓を締め付けられるような痛みが長く続いたり、短くても繰り返せば病院を考えるでしょうし、左肩から左上肢への放散痛という典型的な狭心症の症状でもないようです。
冠動脈の詰まりで右肩に痛みが放散する場合もありますが、動悸も心窩部から上へ突き上げる痛みも治まっているということなので、指圧・マッサージの治療対象だろうと考えました。
この女性は以前、ストレスによる心臓神経症という診断を受けたとうかがっています。
まず、ティッシュにイランイランを1滴たらして香りを嗅いでいただきます。
イランイランは動悸を鎮める香りです。
脈をとると1分間に84、脈がとぶことはありません。
昨日よく眠れなかったということで、アレルギー性鼻炎による鼻づまりと微熱もあります。
この2、3日忙しかったそうで、ストレスによる交感神経優位の状態が続いていたようです。
右肩の痛みは肩甲間部が一番気になっているようなので、心臓の圧迫を避けるために、右肩を上にした横臥位から指圧を始めます。
いつもは遠回りの施術をしていますが、緊急性の確認のため主訴の部位の軽い四指圧から始めます。
右肩甲間部の「肺兪」「心兪」に痛みがあって、体側に沿わせた右上腕を後方に引いて(肩を伸展させて)肩甲骨内側縁の隙間を拡げる四指圧でも痛みがあります。
猫背手仕事の姿勢で右手を使う時に肩甲骨が外転して菱形筋の停止部が引っ張られ続けることで緊張したということが痛みの原因の一つです。
頭の重さは「肺兪」「心兪」のあたりで支えたようです。
2年前に頚椎症の手術をしているので、右肩から右手へ走る痛みは腕神経叢を伝わる神経の痛みのようです。
右上肢内側で尺側には尺骨神経に沿った痛みがあり、これは「心経」の経脈です。
さらに肩周囲の筋緊張をゆるめるために横臥位の指圧の後、心臓が苦しくないことを確認してから伏臥位の指圧も行いました。
後で考えればこれがやり過ぎで、適量刺激を超えてしまったかもしれません。
伏臥位の後、仰臥位で全身指圧を終え、微熱が下がり、鼻づまりが解消して、動悸もないことから安心して帰ってきました。
しかし、3時間ほどして「右肩の痛みがぶりかえして強くなったようだ」という電話をいただきました。
指圧をしなくても痛みは強くなったかもしれないし、患部を強く刺激する指圧はしていないので、指圧による揉み返しではないかもしれませんが、弱い刺激の指圧でもタッチを重ねれば適量を超えることがあります。
仰臥位の指圧がいらなかったかもしれません。
御自分で市販のインドメタシンの外用薬を使って痛みが強くなってしまったこともある敏感な方なので、適量刺激を超えてしまったかもしれないことをお詫びして、安静をアドバイスしました。
指圧・マッサージの血行促進によって痛み物質を含む老廃物が流れる時に、痛みが強くなるということもあります。
そんな場合でも一晩寝たら痛みがすっかり消えてしまうということもあります。
2年前の頸椎手術直後は触ることもできなかった頚や肩甲間部が見違えるほど回復してきた過程を見ているので、少し注意が甘かったようです。
頚椎周囲が主訴の指圧は難しいケースが多く、自分が弱い刺激と思うタッチより「もっと弱く」が適量刺激だとあらためて肝に銘じました。
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